一条アルチメイトファクトリー京都西
ホイール深掘り6 スポークの選択1
2024年2月16日 [一条アルチメイトファクトリー京都西]
<前回 ホイール深掘り5 ハイローフランジハブの効果2
次回> ホイール深掘り7 リアドライブ側1交差1
以前の回(ホイール深掘り3 ポークテンションの左右差2)で、テンションが正確に分からないとスポークの選択が難しいという話をしましたが、その続きです。
スポークにはプレーン、バテッド、エアロなど様々な形状、そして太さのものがあります。
素材もステンレスが一般的ですが、スチール、チタン、アルミ、カーボン、合成繊維など様々です。
そのうえで一般的なステンレス素材に限定しても、形状や太さのバリエーションが数多く販売されています。
それらはどのような基準で選択、使い分ければいいでしょうか?
考え方は色々あるかもしれませんが、個人的にはスポークの「伸び量」を基準にするのがいいと思います。
スポーク形状や太さのバリエーションは多種多様ですが、単純化すればスポークの断面積の差とだけ捉えることができます。
その「断面積」に「素材の弾性率」「スポーク長」を加味すると、このスポークに「~kgf」のテンションをかけたとき「~mm」伸びる、ということが分かります。
「~mm」伸びると分かったところで、スポーク長計算の誤差を修正するくらいの意味しか無さそうですが、実はこの伸び量こそスポークの働きの重要な部分ではないかと思います。
シリーズ初回記事(ホイール深掘り1 緩む側のスポーク)で、緩む側のスポークの働きについて書きました。
緩む側のスポークは元々のテンションを緩めることによって仕事をしている、という内容です。
「元々のテンションを緩める」というのをより具体的に言えば「テンションの影響で伸びていた分を縮める」ということです。
つまり「ホイールに組まれてテンションがかかったときのスポーク長」から「スポーク単体(テンション0)のときのスポーク長」を引いた差、そのコンマ数mmが緩む側のスポークが働ける余地といえます。
であれば、走行中の負荷や衝撃によってリムが変形した際に緩む側のスポークがなるべくテンションを失わずに追従して働くためには、伸び量が大きい方が働ける余地が大きいため有利ということになります。
例として、あるテンションで
・スポークAは0.3mm伸びる
・スポークBは0.6mm伸びる
このとき路面からの衝撃でリムが0.5mm変形したとします。
スポークAは瞬間的にテンションがゼロになり働きを失いますし、それが何度も繰り返されると、ニップルの緩み、ホイールの振れ、スポーク折れなどのトラブルにつながりやすくなります。
スポークBであれば、比較的テンションを保ったままリムの変形に追従して仕事をすることができるので、効率がよく、トラブルも少なくなります。
ところで、これって何かに似ていると思いませんか?
それはサスペンションのサグです。
・スポークの「断面積」「弾性率」「スポーク長」によって決まるは「バネレート」
・「スポークテンション」はサスペンションにとっての「ライダーの体重」
に当てはめて考えることができます。
そう考えると、低テンション側に太いスポークを使うのは、体重の軽い人が高バネレートのサスペンションを使っているようなもので、サグ値が少なく働きが悪い状態といえます。
低テンション側(体重の軽い人)には相応に断面積の小さい(バネレートが低い)スポークを使うことで、低テンション側と高テンション側、どちらも適正な伸び量(サグ値)にすることができ、スポークを効率よく働かせることができます。
では具体的にどの程度の断面積のスポークを使うべきか?
それを決定するためには、事前にスポークテンションを計算する必要があります。
これはサスペンションのサグ値を設定するためには、ライダーの体重を知る必要があるのと同じことです。
<補足>
左右でスポークの太さに差をつけることで、テンション比率が改善されるという説明を稀に見ることがありますが、左右でスポークの太さや種類を変えても、テンション自体が変わることはないので注意してください。
左右のテンション比率は、あくまでもリムとハブの寸法、そしてスポークの組み方によって決まります。
その決まった比率で左右から引っ張らないとリムがセンターに来ない以上、引っ張る道具(スポークの太さや種類)をいくら変えたとしても、リムにかけないといけない力(スポークテンション)は結局同じで、それが変わることはありません。
次回に続く