一条アルチメイトファクトリー京都西
ホイール深掘り2 スポークテンションの左右差1
2024年1月25日 [一条アルチメイトファクトリー京都西]
<前回 ホイール深掘り1 緩む側のスポーク
次回> ホイール深掘り3 スポークテンションの左右差2
前回は緩む側のスポークを働かせるためにはある程度のスポークテンションが必要ということでした。
より具体的にはスポークの「伸び」が必要という感じですが、それはまた後日にします。
ある程度のテンションが必要とわざわざ強調するのは、それが難しい事情があるからです。
ホイールを自分でいじる方なら分かると思いますが、リムブレーキ前輪やシングルスピード等を除くと、左右のスポークテンションには差があるため、どうしてもテンションが低くなる側のスポークが存在します。
個人的には、それを「高テンション側」「低テンション側」と呼んでおり、簡単にまとめると
高テンション側:後輪ドライブ側(右)、前輪ディスク側(左)
低テンション側:後輪非ドライブ側(左)、前輪非ディスク側(右)
となります。
高テンション側はよほど許容テンションの低いリムやデリケートなスポークを使ったりしない限り、一定のテンションに上げるのは難しくないので、問題になるのはもちろん低テンション側です。
でも全体のスポークテンションをガンガン上げていけば、いずれ低テンション側も一定以上になるから問題ないのでは?と思ってしまいがちですが、スポークテンションには許容できる上限があるため、高テンション側のスポークテンションを際限なく上げるわけにはいきません。
仮に上げられたとしても極端に高いスポークテンションは避けるべきです。
スポークテンションの上限値が何で決まるかというと使用するリムの許容テンションです。
ほとんどのリムが100~150kgf(120~130kgfが一般的)あたりを上限としています。
リムに比べれば影響は小さいですが、スポークの強度の兼ね合いもあります。
一方で、ニップルやハブの強度が問題になることは通常ありません。
アルミニップルは弱いというイメージを持つ方もいるかもしれませんが正しく扱う限り、真鍮であれアルミであれリムやスポークより先にニップルの強度が原因で破損することはないはずです。
むしろアルミリム(ハトメ無し)に対しては、真鍮ではなくアルミニップルを使うべきだと思いますが・・・話がどんどん脱線してしまうのでまた後日。
話を戻しまして、高テンション側の上限が決まっているなかで低テンション側のテンションをなるべく上げたいとなると、左右のテンションの差をなるべく近づけるしかない、ということになります。
では左右のテンション差を近づけるにはどうすればいいでしょうか?
それを考えるために、まずは左右でスポークテンションに差が生まれる理由を確認する必要があります。
その理由を一言でいえばハブの「OLDセンター」と「フランジセンター」にズレがあるためです。
OLDセンターはOLD(オーバーロックナット間距離)の中間なので、ホイールそのもののセンターです。
そのままリムのセンター位置でもあります。※非オフセットリムの場合
フランジはスポークがかかる部分なので、スポークの起点といえます。
その左右の中間がフランジセンター。
その二つにズレがあると、左右でスポークの角度が変わります。
簡略化すると上の図のような感じです。
低テンション側(青)は角度が大きく、高テンション側(赤)は角度が小さいです。
この角度に差があるため、左右のスポークテンションを同じにした場合、低テンション側の方が横方向への力が大きくなり、リムは低テンション側へ移動します。つまりセンターがずれます。
リムをセンターに収めるには、左右の横方向の力を等しくする必要があるので、低テンション側は高テンション側よりテンションを下げないといけません。
つまりこの角度の差がそのままスポークテンションの差になっているということです。
※実際はこの前段階でもうひとつテンション比率に関係する角度がありますが、後回しにします。
目的は左右のテンション比率をなるべく近づけることでした。
そのためには角度の左右差をなるべく近づければいい、ということになります。
では、どうすれば角度の左右差を小さくできるでしょうか?
パッと思いつくのは上の図のように底辺の長さを変えてしまうことです。
ただし底辺の長さは「OLDセンターからフランジまでの距離」ですので、ハブの設計次第です。
ここを変えるにはハブそのものを変えるしかありません。
ところがハブを変えるといっても、青矢印方向への変化は左右フランジ間距離(スポークのスタンス幅)が狭くなってしまうので、ホイールの横剛性にマイナスの影響が出ます。
ロードバイクやMTBのリム径であれば、左右のスポークテンション差解消を優先してスポークのスタンス幅を犠牲にしてしまうと、結果的に性能低下を招く場合が多いため、無暗に青矢印方向へ振ったハブを選ぶべきではありません。
実際にこの設計のハブは過去いつくかありましたが、結果的にその多くが消えていきました。
小径ホイールの場合なら話は全く違って、むしろ歓迎される設計だと思います。(小径車のカスタムにGOKISOハブが人気な理由のひとつ)
一方で、赤矢印方向への変化であれば大歓迎です。
ですが、赤矢印方向にはスプロケットやディスクローターがありますので、スペース的に広げることは無理です。
ということで、ハブの設計次第とはいっても、それによる大きな改善は期待できません。
※ハイローフランジハブについては後の回でご説明します。
もうひとつ底辺の長さを変える有効な方法はオフセットリムを使うことです。
オフセットリムはハブではなくリム側を偏心させることで、無理やり底辺の比率をずらしてしまう力技です。
力技なだけあって、左右のテンション比率を近づける効果は非常に大きいです。
ということで底辺の長さを変える方法は
・ハブを変える(あまり効果なし)
・オフセットリムを使う(効果大)
の2つです。
ただこれは逆に言うと、使うハブやリムが決まっているなら底辺の長さは変えられないということです。
ではリムとハブの組み合わせ(底辺)はそのままで、更に角度の差を小さくするための工夫はあるでしょうか?
残るは縦の辺の長さを変えるしかありません。
上の図ように
・低テンション側は縦の辺の長さを伸ばす
・高テンション側は縦の辺の長さを縮める
こうしていけば角度の左右差は小さくなります。
次回に続く